どのくらいそうして歩いたのか、気が付くと見覚えのある山道に出てきた。 すると、いきなりキツネの女がこちらを向いて、 ―――お帰りっ。 と、和尚に一喝した。和尚は、普段に似合わない、妙に卑屈は笑いを浮かべたかと思うと、あっという間に煙のように消えてしまい、近くの藪で大きな音がした。それこそキツネにつままれたような顔をしていると、 ―――あれはタヌキです。 と、キツネの女がすまして云った。私は気圧されておずおずと、 ―――お山の帰り、といっていたが。 ―――一乗寺の狸谷不動山のことです。寄り合いがあったのでしょう。 ―――私を化かそうとしたのか。 ―――少しからかうぐらいのつもりだったのでしょうが、ここまできて、もっと上手のものにバカされそうになったのです。 ―――それは・・・・・・ ―――竹の花。六十年に一回咲くという、竹の花が、今、山寺の周りで満開なのです。お気をつけなさいませ。
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